バセドウ病とは
バセドウ病は、甲状腺ホルモンが過剰に作られる状態である甲状腺機能亢進症を起こす代表的な病気です。甲状腺ホルモンは、身体の代謝を促す重要なホルモンですが、過剰になると全身の臓器へ負担がかかります。その結果、さまざまな症状を呈するようになります。
性別・年齢分布
女性に多い病気であり、男女の比率は男性1人に対して女性5~6人程度です。20~50歳代の方に発症することが多く、なかでも20~40歳代の方の発症が最も多く認められます。
伊藤病院におけるバセドウ病患者の初診時年齢分布(2020年初診時未治療患者)
- 病名の由来
- バセドウ病という病名は1840年にこの病気を研究発表したドイツ人医師カール・フォン・バセドウにちなんで名づけられました。ドイツ医学の流れをくむ日本ではバセドウ病と呼ばれていますが、欧米では一般にアイルランド人医師の名前にちなんでグレーブス病とも呼ばれます。
バセドウ病と「自己免疫」
バセドウ病の発症は、体を守る免疫システムの異常が関係しています。
免疫はウイルスや細菌などの外敵に対する“抗体”を作ることによって体を守る大切な仕組みです。しかし、外敵ではなく自分自身の体を攻撃する抗体(自己抗体)が作られてしまうと、それによって病気が引き起こされることがあります。これが「自己免疫疾患」であり、バセドウ病もそのひとつです。なぜこのような抗体ができるのかはまだ解明されていません。
バセドウ病では、自己抗体(抗TSHレセプター抗体:TRAb、TSAb)が甲状腺を刺激することにより甲状腺ホルモンを過剰に産生します。
バセドウ病の原因
バセドウ病は複数の原因が関与して発症すると考えられています。現在でも明確な原因は特定されていませんが、遺伝学的な要因と環境要因(外傷・ストレスなどの外的因子および妊娠・出産などの内的因子)のいずれもが関与しているといわれています。
症状
バセドウ病では、次の3つが古くから有名な症状(Merseburg(メルセブルグ)の三徴)とされています。
これらの症状はバセドウ病が発見された時代に特徴づけられた症状であり、検査の進歩で早期発見が可能になった現在では、実際にはこれ以外にもさまざまな症状が挙げられます。
(1)甲状腺腫(甲状腺がはれている状態)
(2)眼球突出(甲状腺関連眼症)
(3)頻脈(脈拍の速い状態)
甲状腺腫
バセドウ病では、多くの場合甲状腺が全体的にはれる「びまん性甲状腺腫」を認めます。なかには甲状腺のはれに左右差がある方や、はれをほとんど認めない方もいます。
甲状腺ホルモンの過剰による症状
甲状腺ホルモンは身体の代謝を促すホルモンです。甲状腺ホルモン過剰の状態では代謝が異常に高くなり、全身が休むことなく活発に働き続けてしまいます。このため、多汗、暑がり、食欲亢進、体重減少などの症状が起こります。
また、内臓の働きも活発になり、特に心臓は影響を受けやすいため、動悸、頻脈、時に不整脈や心不全などを引き起こします。腸のぜん動運動も活発になり、便通の異常(軟便、下痢、頻回な便通)も認めます。ほかには手足のふるえ、筋力低下、倦怠感などもよくみられる症状です。精神的な不安定さ、不眠、集中力の低下なども生じ得るため、大人では仕事の能率の低下、子どもでは成績の低下がみられることもあります。血液検査では、代謝亢進によりコレステロール、中性脂肪などの脂質の低下や血糖の上昇を生じることがあります。骨の代謝(古い骨を吸収し、新しい骨を作る代謝)も早まるため、新しい骨が十分に作られずに骨密度が減少することが知られており、特に閉経後の女性や高齢の方では骨粗鬆症のリスクも高くなります。
これらの症状は甲状腺ホルモン過剰に由来する症状であり、ホルモン正常化後には軽快しますが、不整脈や心不全については長引くこともあり、この場合は循環器内科と併せて治療を受けていただくことが必要です。
また、喫煙はバセドウ病の治療効果を妨げるため、禁煙することも非常に重要です。
図1では当院に来院した患者様の治療前の症状を多いものから列挙しました。
年代によって異なる症状の現れ
バセドウ病では多彩な症状が認められますが、その現れ方は個人差が大きくさまざまです。また、図2-1,2-2で示すように年代によって現れる症状は違います。甲状腺のはれは若い方に目立ち高齢者はあまり認めず、体重減少は高齢者に多く、若い方では逆に食欲が亢進して体重が増える方が多いようです。
甲状腺ホルモンの過剰によって生じる特殊な病態
甲状腺クリーゼ
十分な治療を行っていない甲状腺機能亢進症の方が、強いストレス(外傷、感染症、甲状腺以外の手術など)を受けたときに起こりうる多臓器不全の状態です。治療開始早期や不規則内服、検査のための休薬などが誘因となって発症することがあります。症状は、意識障害、38度以上の発熱、頻脈(1分間に130回以上)、下痢などの胃腸の症状、黄疸、心不全などです。現在は治療法も進歩していますが、それでも命をおとす危険性もあります。適切な治療を受け、甲状腺機能を安定した状態に保つことが大切です。
甲状腺中毒性周期性四肢麻痺
甲状腺機能亢進症の方で、暴飲暴食(特に炭水化物やアルコールの大量摂取後)や激しい運動をした翌朝などに手足が動かなくなることがあります。これは血液中のカリウム(K)というミネラルの急速な低下が原因で生じるもので、アジア人の男性に多いことが報告されています。
バセドウ病に関連する症状(甲状腺機能とは関連しない)
甲状腺関連眼症
古くから有名な症状のひとつでもある眼球突出をはじめとした目の症状(甲状腺関連眼症)は、バセドウ病の特徴的な症状です。甲状腺機能亢進症の診断と同時に甲状腺関連眼症を呈する方が多いですが、治療開始後に眼症を発症する方や、眼症のみ先に発症し後から甲状腺機能亢進症を発症する方もいます。眼症は甲状腺機能の改善のみでは軽快しないため、専門の眼科での検査や治療が必要となります。
- (1)眼球突出
- 眼球の後ろにある脂肪組織や眼球を動かす筋肉が炎症やむくみによって肥大し、眼球が前方に押し出され眼球突出がおこります。突出の程度が大きい場合には、眼球表面の結膜の発赤や角膜の潰瘍が起こり、痛みを伴うこともあります。
- (2)眼瞼(がんけん=まぶた)後退
- 上まぶたを上げる筋肉の緊張や炎症により、まぶたが下がらなくなることによって起こります。甲状腺ホルモンが高いときに筋肉の緊張から眼瞼が後退することがあり、これは抗甲状腺薬でホルモンを正常化させると改善することもあります。しかし、炎症のため眼瞼後退が現れている場合は、眼症そのものの治療が必要となります。
- (3)複視
- 眼球を動かす筋肉に炎症が起きると筋肉がはれ、動きが悪くなります。このため左右の眼球が同じように動かず、物が二重に見えることを複視といます。
- これらの眼症状は喫煙によって増悪することが知られています。専門の眼科での治療によって症状の軽快は期待できますが、禁煙も非常に重要です。
前脛骨粘液水腫
前脛骨粘液水腫は、足のすねから足首周囲の皮膚の一部が腫れて色が赤黒くなる皮膚の症状です。ステロイドによる治療で軽快する報告もありますが、効果には個人差があります。
検査
バセドウ病の診断には、血液検査、場合によって(放射性ヨウ素)アイソトープ検査(甲状腺シンチグラフィ)を行います。また甲状腺の大きさや、腫瘍(しこり)の合併の有無を確認するため超音波検査も行います。甲状腺ホルモン高値により心臓に負担がかかることがあるため、心不全や不整脈が疑われる場合は胸部レントゲン検査や心電図も行います。
- (1)血液検査
- 甲状腺ホルモン(FT3、FT4)濃度の上昇、甲状腺刺激ホルモン(TSH)濃度の低下、TSHレセプター抗体(TRAb・TSAb)の高値などが認められます。
- (2)放射性ヨウ素(アイソトープ)検査(シンチグラフィ)
-
甲状腺の働き具合を評価する検査です。
TRAb・TSAbが陰性の場合、血液検査のみでは確定診断とならないため、この検査を行います。放射性ヨウ素は甲状腺に取り込まれる(吸収される)性質がありますので、バセドウ病のようにホルモン産生過剰の場合は取り込み率が高くなります。放射性ヨウ素ではなく、テクネシウムを用いるシンチグラフィもあります。アイソトープ検査時の注意
放射性ヨウ素を用いる検査では、検査の7日前からヨウ素を含む食品の制限が必要です。 放射性物質を使用しますので、妊娠中の方は検査ができません。また授乳中の方は、検査日を含めて3日間授乳を中止する必要があります。
詳しくは検査時にご説明します。
- (3)超音波検査
- 甲状腺の大きさや腫瘍の有無を確認します。
- (4)心電図検査
- 脈拍の数や不整脈の有無、心疾患の有無を確認します。
- (5)胸部レントゲン検査
- 心臓の大きさや肺の陰影を確認します。
治療
バセドウ病の治療には内服薬(抗甲状腺薬)による治療、アイソトープ(放射性ヨウ素)治療、手術の3つの方法があります。
まずは内服薬の治療を開始することが多く、病状の経過や、腫瘍合併の有無、眼症の状態などによってほかの治療を検討します。
1.内服薬による治療
- 甲状腺ホルモンの合成を抑える薬(抗甲状腺薬、無機ヨウ素)を規則的に服用する方法です。
- 抗甲状腺薬
- 抗甲状腺薬にはチアマゾール(メルカゾール®)とプロピルチオウラシル(チウラジール®/プロパジール®)の2種類があります。
即効性のある薬ではありませんが、服用開始から2~3週間で効果が現れ、2~3ヶ月程度で正常範囲までホルモンが下がります。また、治療開始後2~3ヶ月間は副作用が起こりやすい時期であり、この間は2週間毎の通院が必要です。病状によって適切な量の薬を継続的に服用いただくことで甲状腺ホルモンが正常に維持されます。甲状腺ホルモンが低下したからといってすぐに投薬を中止してしまうと、ホルモンはすぐに上昇してしまうため、処方どおり内服を継続することが大切です。
内服治療は少なくとも2年程度は必要となることが多く、それよりも長い期間の内服を要する場合もあります。抗甲状腺薬 1錠/日以下の服用で半年以上甲状腺機能が正常に保たれており、その時点でTRAbやTSAbの値も正常であれば投薬の中止を検討します。服薬中止後の1年間は、甲状腺ホルモンの変動を生じることが多く、2~4ヶ月に1回の間隔で甲状腺機能の経過を確認する必要があります。投薬治療のみで寛解(投薬なしでの病状の安定)を長期に得られる方は、残念ながら多くはありません。バセドウ病の再発を認めた場合は治療を再開する必要があり、特に再発を繰り返す場合には根本的な治療法である手術やアイソトープ治療をおすすめしています。
【抗甲状腺薬の副作用】
抗甲状腺薬は、以下のような副作用を生じることがあります。注意点をしっかりご理解いただき、定期的に受診することが大切です。- (1)かゆみ、皮疹
- 服薬開始後2~3週間以降で起こることが多く、約5%の方に生じる可能性があります。程度が軽い場合は抗アレルギー薬を一緒に服用することで内服継続できることもあります。抗アレルギー薬を併用しても改善しない場合や悪化する場合は、服薬を中止する必要があります。
- (2)肝機能障害
- 抗甲状腺薬を飲み始めて2週間~3ヶ月目ぐらいまでに生じることが多く、その都度血液検査で確認する必要があります。甲状腺ホルモンの変動によっても肝機能は変動することがあるため、抗甲状腺薬による影響か、ホルモンの変動に由来するものかを見極めることが重要となります。当院での実際の頻度は約2.5%の方で投薬中止を検討する肝機能障害を認めており、なかでも特に重症な方の頻度は0.2%でした。薬剤の種類ではプロピルチオウラシル(チウラジール®/プロパジール®)のほうがチアマゾール(メルカゾール®)よりも頻度が高いといわれています。多くの場合、投薬を中止するだけで肝機能は軽快しますが、重症の肝機能障害では入院を必要とすることもあります。自覚症状では気づきにくいですが、服薬中に皮膚や眼球(白目の部分)が黄色く見えるなどがみられた場合は服薬を中止し、血液検査で肝機能を確認することが必要です。
- (3)無顆粒球症(顆粒球減少症)
- 抗甲状腺薬を飲み始めて2週間~3ヶ月目くらいまでに生じることが多く、その都度血液検査で確認する必要があります。これは白血球のなかでも顆粒球という種類が非常に少なくなる状態です。顆粒球は、体内に侵入するウイルスや細菌から体を守る働きをするため、無顆粒球症(顆粒球減少症)ではそのような病原体の感染に対応できなくなることが問題となります。無症状で血液検査から発見されることもありますが、高熱や強いのどの痛みを伴うことも多くあります。当院での実際の頻度は約0.2%とまれですが、致命的となることもありますので、服薬中にこのような症状を認める場合は服薬を中止し、血液検査で白血球数(顆粒球数)を確認することが必要です。飲み始めから2週間~3ヶ月以内に起こることが多いですが、それ以後に起こる場合もあり注意が必要です。
- (4)その他のまれな副作用
- 関節痛:痛む場所が変わり、おもに腕や脚の関節にみられます。
ANCA関連血管炎:おもにプロピルチオウラシル(チウラジール®/プロパジール®)により起こります。発熱や関節痛のみの場合や、腎臓や肺の血管に炎症を起こし、肺・腎臓の障害が起こる場合もあります。服用を開始してから数年後に起こることもあり、薬の内服期間中に発熱、関節痛などの症状を認めた際は検査を行います。
- 無機ヨウ素薬
- 無機ヨウ素は甲状腺ホルモンの原料ですが、過剰に摂取することで一定期間甲状腺ホルモンの分泌を抑制します。この効果をバセドウ病の治療として用いることがありますが、治療効果の持続期間に関しては個人差があります。早い方では2週間ほどで効果が消失してしまいますが、数ヶ月から数年の期間で効果が保たれることもあります。当院では治療開始早期に抗甲状腺薬と併用することや、抗甲状腺薬が服用できない期間(副作用など)に代替薬として用いることが多いです。
2.アイソトープ(放射性ヨウ素)治療
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ヨウ素は甲状腺ホルモンの原料であり、体内に摂取されると甲状腺内に取り込まれ甲状腺ホルモンの合成に使用されます。アイソトープ(放射性ヨウ素)治療はヨウ素の放射性同位体を服用することで、甲状腺内にアイソトープを取り込み、甲状腺細胞を破壊して数を減らすことでホルモン産生量を軽減させる治療です。
即効性のある治療ではなく、アイソトープの服用から約1~2ヶ月で甲状腺は縮小し始め、約2〜6ヶ月で甲状腺ホルモンの分泌も次第に減少します。治療後4~6ヶ月間は甲状腺ホルモン値の大きな変動が起こる可能性がありますので、1ヶ月毎に来院していただき内服量の調整が必要となります。治療後約半年~1年程で安定した状態となり、抗甲状腺薬の中止を検討できます。治療効果には個人差があり、1~2年経っても抗甲状腺薬が中止できない場合は、再度アイソトープ治療を行うことが可能です。治療後、甲状腺機能が正常となって抗甲状腺薬や無機ヨウ素薬(ヨウ化カリウム)が不要になる方もいれば、低下症となり甲状腺ホルモン薬の内服を継続する必要がある方もいます。詳しくは担当医とご相談いただくことをおすすめします。
放射線を用いる治療ですが、この治療によってがんや白血病、免疫抑制などの放射線障害が起こることはなく、安全に行うことのできる治療です。また、お子さんの検討をされる場合も、男性では治療から半年間、女性では治療から1年間は避妊を必要としますが、それ以降は問題ありません。
アイソトープ治療後に約1%の方で甲状腺関連眼症が悪化することがあります。このため、治療前に専門の眼科にて詳しく検査を受けていただき、治療が可能であるかの評価が必要です。また、治療後にも定期的に眼科検査を受けていただき、眼症の変化がないかを確認いただくことをおすすめします。
治療の前後にヨウ素制限を行う必要があり、抗甲状腺薬や無機ヨウ素薬の中止も必要です。
放射線を使用する治療ですので、妊婦・授乳婦、18歳以下の方には原則行っておりません。
この治療は放射性ヨウ素を使用するため特別な設備が必要であり、実施できる施設は限られています。
伊藤病院では1955年から行っています。
3.手術療法
甲状腺ホルモンを過剰分泌している甲状腺組織を外科的に切除し、甲状腺ホルモン過剰の状態を改善させる方法です。
当院では、現在は手術療法が望ましい患者様には、甲状腺組織を残さない「甲状腺全摘術」を標準術式としています。このため、手術後は甲状腺ホルモン薬の内服が必要となります。甲状腺ホルモン薬(チラーヂンS®)は副作用も非常に少なく、服用量が安定すれば長期処方が可能となり、通院回数も少なくなります。
【亜全摘術と比べての全摘術の利点】
- (1)再発がない。
- (2)抗TSHレセプター抗体(TRAb)が亜全摘より早期の正常化が期待できる。
早期妊娠希望の方は、TRAbが正常化することでメリットになる可能性があります。
治療法の選び方
3つの治療法にはそれぞれ利点と欠点があります。病状、年齢、社会的状況などを考慮して適した治療方法を選ぶ必要があります。また薬での治療中に病状が変わってくることもありますので、その状況に応じて治療方針を変更することもあります。
薬による治療 | アイソトープ(放射性ヨウ素内用)治療 | 手術療法 | |
---|---|---|---|
適している方 |
あらゆる年齢層 ・薬をきちんと飲める方 ・甲状腺腫が小さい方 *ただし、妊婦、授乳婦、小児は薬の種類を選ぶ必要あり。 |
妊婦・授乳婦でない方、近い将来に妊娠の予定がない方や19歳以上の方で ・薬で再発を繰り返す方、薬でよくならない方 ・薬で副作用が出た方 ・早く治したい方 |
・薬で治りにくい方 ・薬で副作用がでた方 ・甲状腺腫が大きい方 ・早く治したい方 ・甲状腺の腫瘍を合併している方 ・眼症のある方 |
利点 |
・通院しながら治療が可能 ・診断当日から治療開始が可能 |
・薬治療より治療効果が短期間に得られる ・副作用や合併症が少ない ・再発しにくい ・繰り返し治療可能 |
・ほかの治療より治療効果が早期に得られる ・手術翌日から抗甲状腺薬を中止できる ・再発が少ない ・甲状腺ホルモン薬は長期処方が可能 |
欠点 |
・長期間の内服が必要なことが多い ・再発が多い ・副作用の可能性がある |
・1回の治療で十分な効果が得られないことがある ・抗甲状腺薬をやめるまでに1年以上かかることもある ・甲状腺機能低下症になることがある ・甲状腺腫が大きい場合、心疾患、糖尿病などの合併症がある場合、高齢の場合は入院を要する ・甲状腺眼症が悪化することがある |
・傷跡が残る ・甲状腺機能低下症になる (生涯甲状腺ホルモン薬の服用が必要) ・手術に伴う合併症の可能性がある ・入院を要する |
日常生活
日常生活の注意
甲状腺ホルモンの高い状態が続いている間は、心臓にも負担がかかり頻脈や不整脈が起こりやすいため、激しい運動や心拍数が上がる動作などは控えてください。 治療で甲状腺機能が正常になれば、運動を含め通常の生活が可能です。
食事について
食事制限はありません。昆布などヨウ素を含む海藻類も、普段どおり召し上がっていただいてかまいません。甲状腺ホルモンの過剰な時期は、代謝とともに食欲も増しています。ホルモンが低下してくると代謝は正常化しますが、食欲は低下しにくく、体重は増えやすくなります。体重増加は抗甲状腺薬の副作用ではありません。
定期的な通院
治療していく上で大切なのは定期的な通院です。薬による治療でも、内服が途切れると病気の状態は不安定になります。アイソトープ治療後も甲状腺機能が低下する場合があり、手術後も甲状腺ホルモンの補充が必要となりますので、通院間隔は状況によってさまざまですが定期的な通院が必要です。
喫煙について
喫煙は眼症に対して悪影響なだけでなく、抗甲状腺薬による治療の効果も下げてしまいます。禁煙し、たばこの環境を避けるようにしましょう。
妊娠とバセドウ病
バセドウ病は20~30歳代の女性に比較的多くみられる病気です。妊娠・出産については計画する段階で、その都度主治医と相談することが大切です。妊娠中は一般にバセドウ病は落ち着きやすくなりますが、産後は勢いが増すことが多いため、定期的に受診することが大切です。
妊娠中最も大切なこと
バセドウ病の方の妊娠において最も大事なのは、甲状腺ホルモンが正常にコントロールされていることです。甲状腺ホルモンが高いままで妊娠すると、流産・早産のリスクが高くなります。安全な妊娠・出産のためには、前もって甲状腺ホルモンの値を正常にしておくことが大切です。
妊娠時の治療法
バセドウ病の治療は、一般に抗甲状腺薬(メルカゾール®、チウラジール®/プロパジール®)、無機ヨウ素の内服が中心です。妊娠初期(妊娠5~9週)の期間中のメルカゾール®内服で胎児に影響する可能性がわずかにあるため、妊娠希望の際には妊娠初期にどの薬で治療するのかを考えて準備する必要があります。また、バセドウ病の病勢が強い場合には妊娠前の段階で手術、もしくは1年以上妊娠が待てる場合にはアイソトープ治療へ変更し、病状の安定を待ってから妊娠を検討していただくこともあります。
甲状腺ホルモン薬(チラーヂンS®)は、妊娠中、授乳中の服用に問題ありません。
出産する病院の選択
妊娠後期でバセドウ病が落ち着いて薬もいらなくなり、甲状腺機能も正常である場合には、通常の出産と同じで病院の制限はありません。
バセドウ病の抗体(TRAb、TSAb)は、妊娠経過中に低下することが多いですが、妊娠後期になっても高値が続く場合には胎盤を通して胎児の甲状腺を刺激する可能性があります。この場合、胎児や新生児の甲状腺機能異常を起こすことがあるため、新生児科併設の病院での出産が望ましいです。この抗体は出生後1ヶ月程度で子どもの体内からは消えていきますが、その期間は新生児科や小児科で治療が必要な場合があります。
授乳・産後について
チウラジール®/プロパジール®は母乳への移行は少なく、原則授乳に制限はありません。メルカゾール®は少量であれば問題ありませんが、内服量が多い場合には母乳への移行を考慮する必要があり、授乳間隔を長くとる必要や人工栄養との混合栄養を検討いただきます。無機ヨウ素は乳汁中で濃縮されるため、授乳中の無機ヨウ素内服は原則行いません。 産後はバセドウ病の病勢が強くなりやすいため、定期的に通院し適切な治療をすることが大切です。
妊娠による一時的な甲状腺機能亢進症
妊娠初期の甲状腺機能亢進症には、胎盤で作られる性腺刺激ホルモン(絨毛性ゴナドトロピン:hCG)による亢進症があります。このホルモンの濃度は妊娠中期になると低くなるため、自然によくなります。